ベートーヴェンの第九と年の瀬

空気も澄みきって、冷たい冬の到来です。

師走の風物詩、ベートーヴェンの第九。アルトのソリストとして参加した第9演奏会も昨日終わりました。今まで第九は合唱もソロも歌ったことがありませんでしたので、これが初めての第九でした。でも私の手元にあった日本版の楽譜には1988年と書いてあります。ず~いぶん昔に私は興味を持って楽譜を買っていたのでした。こんなふうに舞台で演奏に加わる機会に恵まれて幸せでした。

さて、ベートーベンの第九の詩は皆様ご存知のようにシラーによるものです。この壮大な詩は素晴らしいです。昨日は、オーケストラの音で舞台は揺らぎ、また、600人を越えた昨日の合唱の方々が舞台に並んだ光景は圧巻で、リハーサルの時には、キョロキョロしてはいけないとは思いつつも、本番の時には振り返るわけにはいかない、と思って、何度も振り返って見てしまいました・・・。すごかったです。

それで、いざ本番。第2楽章が終わって合唱の方々から入場が始まりました。全員舞台に並びきるまでに数分、ようやくソリストも入場、という寸前にステージマネージャの方から、「今日はお客さんが2200入ってます。びっくりしないで、いつもどおり歌ってください!」と言われ、心して舞台へ!ホントにびっしりでしたが、2階席、3階席のほうはライトがまぶしくて光に煙るように見えるので、あまりはっきり認識できませんでした。でも、客席がリハーサルのときのように空洞ではなくて、びっしりお客様で満たされていると思うと、とてもあたたかな温度みたいなものを感じました。

ベートーヴェンの第九にまつわるお話は、ショット社の解説付スコアに写真や挿絵入りで出ています。Ludwig van Beethoven, Symphonie Nr.9 d-Moll, op.125, Taschen Partitur: Einfuehrung und Analyse von Dieter Rexroth, Originalausgabe. ( Wilhelm Goldmann Verlag/ Musikverlag B.Schott's Schoene 1979) 初めての第九に向けて練習に明け暮れ、あまり読書が進みませんでしたが(それにドイツ語なので・・・)、おもしろそうな所をかいつまんで読んで眺めて楽しみました。例えば、初演でソプラノとアルトを歌った二人のソリストの愛らしい写真は印象的でした。ベートーヴェンと交流のあった歌手たちだったといいます。

初演の際のベートーヴェンの想定では、合唱は各パート25人ずつで合計100名だったそうです。いずれにしても大編成です。でもソロのところはオーケストラも薄くなって、4人のアンサンブルがしっとりと聞こえるように書かれています。歓喜の歌が、ただの大音響ではなく、こうして心のひだに触れるようなところから発していることを知るとき、ベートーヴェンの名言「心から出でて、心に至らん事を」の言葉も身に沁みます。昨日は、ソプラノの方の衣装の青と私の衣装の赤、それにオーケストラと合唱の方のシャツやブラウスの白とをあわせて、奇しくもフランスの国旗のようになりました。自由、平等、博愛のフランス革命のこと、それに刺激を受けたシラーのこと、などなど思いも巡りました。いつまでも芸術を享受できる世の中でありますように。