ヴェネチアからの便り

お花見のシーズン到来で、昨日は上野の桜を見に行った。

一緒だったのはヴェネチアからの女の子。2ヶ月前から東京に滞在、7月には故郷に帰るそうだ。まだ上野公園に来た事もないし、桜も観ていないというので、ご案内することにした。

彼女は私がシュトゥットガルトにいたときに、劇場と大学でコレペティをしていたイタリア人のCさんの知り合い。Cさんはヴェネト州出身で、ヴェネチアの合唱団を教えていた時期があった。そのころの知り合いだとのこと。その後、Cさんはアイスランドのオペラ劇場に職を得て、ダブリンへ。そしてその地の歌い手であったアイスランド人女性と結婚。その後、シュトゥットガルトの劇場に職を得て、夫婦でシュトゥットガルトに住むようになった。ちょうどその頃、私がシュトゥットガルトに留学して、Cさんに出会った。

そして、今、そのCさんとのヴェネチア時代の知り合いのSちゃんが、東京に半年滞在することとなり、Cさんから東京には私がいるからと聞いて、連絡をくれたのだった。

昨年の今ごろ、確かこのブログに、行ってみたいけれどまだ行った事のない街として、ヴェネチアのことを書いた。そしてそれから1年、まだ行っていないけれど、ヴェネチアからの女の子Sちゃんと一緒にお花見をすることになるとは、人との巡り合わせって思いがけず、本当に不思議なものだ。

そういうわけで、昨日は混雑する正午の上野で、そもそもお互いに顔も知らない同志で待ち合わせが可能なのだろうか、という不安を抱えながらも、ちゃんと会えた。

それから桜並木、忍ばずの池、東照宮寛永寺東京芸大、と名所を案内した。彼女が驚いていたのは、桜のあるところはどこへいってもその下で、座って何かを食べている人たちがいるということ。本当に、皆、ひたすら食べ、飲んでいる。これは初めてみたら凄い光景として写るようで、写真を撮りまくりながら、自分はまるで、ヨーロッパを旅行している日本人みたいだ、と自分で言って笑っていた。

忍ばずの池の弁天堂のまわりにはたくさんの屋台。次々に登場するおいしそうな目新しい食べ物に、あれは何?これは何?と彼女は大喜び。少しきれいな精養軒にでも案内しようかと思っていたけれど、ここのものから何か食べてみたい!というご要望に合わせて、ついに屋台の今川焼きみたいにまあるいお好み焼きを食べることに。日本の食事は量が少なくていつも足りない、と話していたSちゃんも二つセットを購入したら、二つ目の途中でかなり満腹になった様子。中にこんなにいろんなものが入っているなんて!!!とまた驚き。豚肉のほかに、卵も丸ごと一個入っていた。

久しぶりにイタリア語で話せるのが楽しくて一生懸命思い出して話すけれど、やはりしばらく使っていないと語彙が頭から消え去っている。イカの丸焼きのところで、イカといいたくてなかなか出てこない。そう、イカはセッピア(Seppia)というのです。
あゆの姿焼きにも見入って写真を撮っていた。

フルーツに水あめを絡ませたのもお気に召して、イチゴのを選んで喜んでほおばっていた。日本の屋台文化も、こんなに喜んで楽しんでもらえてよかった。私は子供のころの夏まつりが懐かしくなって、ラムネを飲んだ。ビンは返すと100円戻ってくるらしい。

それから綿あめはイタリアにもあるけれど、袋にいは入っていない、とドラエモンとかキティちゃんの綿あめの入ったふくろまで写真に撮っていた。綿あめはツッケロ・フィアート(Zucchero Fiato)という。フィアートは息とか古くは「風のそよぎ」のような意味がある。砂糖を空気にのせてそよがせた、というような綿あめの、どちらかというと生成過程の動的なイメージがそのまま言葉になっている。日本語のほうは見た目が綿みたいだ、という出来上がった綿あめの状態が名称になっている。言語が違うとその物の命名にも、観点の違いが現れていておもしろい。

他にも面白いことはあった。金魚すくい。私が説明していると、前にいた外国人のおじさんが私たちのイタリア語を理解したらしく、話に加わってきた。
「これ、1匹がこの値段なの?」
「いえいえ、紙が破れるまで、何匹でも取れるだけとって、持って帰れるんですよ。」
「ふ~ん、そう、ありがとう。」
でも、食べる魚じゃないっていうことは説明し忘れた。大丈夫だったかな・・・。

東照宮の桜もきれいだった。

この夏にはヴェネチアに帰って、お友達の結婚式に出席することを楽しみにしているとか。つい、あの美しい街ヴェネチアの結婚式の様子を想像して、早くも夏のヴァカンス気分まで味わってしまったような気がする。満開の桜の下で。

都合があり、午後の2時間半のお花見だったけれど、ヴェネチアの香りを運んできてくれたSちゃんと、日本のお花見の風物の楽しさを再発見するような経験ができた。