レーベユンの路地にて

イメージ 1こんなレンガの石畳が続く街の路地に立つと、おとぎの国に迷い込んだかのような錯覚に陥る。あまり静かな街の様子に、思わず町長さんに、この町の方々は何で生計を立てていらっしゃるのですか?と聞いてしまった。町長さん直々に運転して下さっていた関係者の乗った車中での会話。するとお返事は、そうですねえ、この町には、パン屋もある、靴屋も鞄屋もある、医者も何軒かあるし、郵便局に銀行もあります、何でもありますよ!とのこと。
 
つまり、そのどこかで町の人たちは働いていて、町の中に職場もある、ということだ。もちろん近郊の都市ハレまで通勤している人もいるとのことだが、みんなが東京へ通うような東京周辺の生活からすると随分と雰囲気が違う。これをのどか、と感じるのは、移動のせわしなさがないからだろう。バッハもライプティヒでトーマス教会とニコライ教会の両方で仕事をして、毎日徒歩で行き来していたという話を思い出す。小さくコンパクトにまとまった町の中で、生活のすべてをきりもりできるような日常を想像してみるのも悪くない。そこでは生活が深くその土地に根ざし、掘り下げられて、ゆったりと時間が流れていくのだろう。
 
レーヴェはそんなところで生まれ育った。スポイルされていない、洗練されすぎない、独特の素朴な魅力を持つ彼の音楽の秘密がちょっとだけわかったような気がした。私の質問の受け答えをしてくれたその町長さんの、落ち着いた自然な物腰そのものが、レーヴェ本人であるかのように、今、思い出される。