旅をする幸せ

今日は、秋の演奏会に向け、選曲をしながら練習をしていました。いままで勉強してきたレパートリーをさらっていると、その曲を勉強したときのこと、空気感などが、懐かしく蘇ってきます。でもそこに、今の自分だからこそできるテクニック、そして何よりも、今の自分の精神世界ゆえに、その曲や詩から触発される心、も加わって、新たなレパートリーのように取り組むことができるのも、また一興です。

そういう練習を終えて、いつもの帰り道を歩いていると、今日は、もう暗くなっていましたが、明かりやその他すべての私を取り巻く世界が、いつもとは違って見えるようでした。確かにお花見客のにぎわいや赤い提灯も見えましたが、そのせいではないのです。どこか外国にいるような感じでした。留学中、本当に音楽だけに打ち込んでいた、そんな日々が幸せな時として、私の中に記憶されているからかもしれません。それに、歌っていた世界、つまり、メーリケの生まれ育ったドイツのシュヴァーベン地方、ヴォルフの歌曲に出てくるスペインの牧歌的風景、シューベルトの描き出した月の夜の心象風景、マスの泳ぐフレッシュな川、ブラームスの歌に出てくるハンガリーはジプシーの世界などなど津々浦々に、私の心が旅した結果だったのかもしれません。

人生もまた旅、といいます。日々、旅路と思えば、些細な事など忘れて、ゆっくりと眠れそうです。