地球は青い星

以前に、ボンのベートーヴェンハウスの入り口わきの壁に取り付けられている謎の装置について書いた。何に使うのか、私と同世代の一緒に見学したドイツ人にもわからなかったものだ。
 
この度、ある会合で私の留学や旅の経験を音楽の話題と共にご紹介する機会があり、その準備の折に、ご本拠のベートーヴェンハウスの知人(実は研究所の所長さんである)に写メールをして、これは何でしたか?と率直にお尋ねしてみたところ、すぐにお返事をいただいた。
 
これは、昔、まだ街の公の水道設備がなかった17世紀、地下水を生活用水として汲み上げるために使用された、大きな取っ手のついたポンプであった。設備の整った家にはこのような設備があったが、そうでない貧しい家では、近くの泉へ水を汲みにいかなくてはならなかったそうだ。ベートーヴェンの生家にはこの設備があった。彼の恋多き、そして種々の時代の風と闘った苦悩の人生を思うにつけ、このように設備の恵まれた環境に生まれていたことに、多少なりともほっとさせられる。
 
ちなみに今回、私がお話をさせていただいた会に出席されていたご年配の方々の中には、昔、北国で朝起きるとまず、凍ったポンプに温かいお湯を通してから、使用する、それが一日の始まりだった、と語って下さった方が複数いらして、17世紀にまで遡らなくとも、まだ人が水を手漕ぎで汲み上げていた素朴な時代は、日本でもすぐ近くまであったのだ、と気づかされた。
 
震災後の収束のめどがたたない苦い経験を脇目に、早くも原発再稼動の動きさえある昨今、何か我々の生活の当然の「便利さ」を、一度、抜本的に見直し、場合によっては、多少、時代を戻ってでも環境を守るような方向を取る選択肢もあるのではないか、と思わされるところである。
 
地球は宇宙からみると青い、水の星だ。この美しい星を守りたいと思い、行動することは、そんなにメルヘンチックなことだろうか。実に、現実的なことではないだろうか。ドイツはまさしく今、その道を採ろうと歩き出している。そのドイツを、過剰反応だという日本人のほうが、よほど鈍感なのではないだろうか。