ヴェネチアのワーグナー

 「ヴェニスに死す」とは、トーマス・マンの小説(1912年)であるが、今年、生誕200年を迎えるワーグナーヴェニスで客死した人物である。先の小説の内容は、ワーグナーとはまったく関係がないが、トーマス・マンも、この大作曲家、一時代を築いた芸術家が、ヴェニスに死したことくらいは、知っていたかもしれない。
 
ワーグナーは死の前夜、ヴェネチアの自宅で、フケーの「ウンディーネ」を朗読したそうだ。そしてその後で、ピアノに向かって、自作のラインの乙女たちの歌を弾いたという。(新潮社のカラー版作曲家の生涯シリーズ「ワーグナー三光長治著による。)
 
昨年のウィーンの教会でのコンサートで、フルートの方が演奏して下さったのは、まさにこのフケーの「ウンディーネ」に着想を得て、ライネケが作曲したフルート・ソナタだった。フケーの物語には、ドナウ河下りでウィーンまで出よう、というシーンもあり、その途中、ウンディーネは意に反して、水の世界へ戻ってしまうのだが、何ともちょうどウィーンにゆかりのある作品だろう、と思っていたら、今度は、ワーグナーにも関係していたとは驚きだ。ワーグナーはこの物語を大層気に入っていたそうである。なるほど、彼も、ロマン派時代に生を受けた人であったのだ。こうして、私の年末のウィーンは、このワーグナー年につながった。「ウンディーネ」はそれまで読んだことがなかったが、コンサートのプログラムにあらすじくらい紹介したいと思い、何冊かの翻訳書を手にとって読んだのだった。常なることながら、不思議なご縁、導きを感じる。この6月には、私はワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集をプログラムに入れた演奏会を控えている。
 
そして、我が家のワーグナーローズは、今年も緑の葉をつけ、蕾を携えて、今にも咲きそうな気配。今年最初のシーズン、蕾は何と8つ!ちょうどワルキューレの数に達しました!(このバラ、何度も書いていますが、以前、ワルキューレ出演の折、初日に演出家の方から、皆で一輪ずついただいた、一輪のバラだったのです。土に根付き、4年半が過ぎ、根元の茎は樹のようになイメージ 2ってきましイメージ 1た。)