王子稲荷のお狐さま伝説

イメージ 1私がよくリサイタルをさせていただく北とぴあは、東京都北区王子にあります。今ではJR京浜東北線のほか、東京メトロ南北線も通って、交通の便もよくなりました。この北とぴあには大ホールと小ホール、その他のサロン風の空間もあるようですが、私のリサイタルはいつも、その小ホールに相当するつつじホールです。たまたまですが、私の初めてのオペラ出演はまだ大学院生の頃、この北とぴあの大ホールで、ロッシーニのフランス語のオペラ「オリー伯爵」でした。そして、留学から帰って初めて出演したオペラも会場がこの北とぴあでした。北とぴあでのリサイタルも先日でかれこれ4回目になりました。入口にある像は、長崎の平和祈念像の小型コピーです。長崎の像の作成者の方が、北区にご在住になり名誉市民になられたというような関係でここに飾られているそうです。芸術・文化と平和への願い、多いに結びつきますね。
 
何かご縁を感じる王子ですが、昨年春のリサイタルのあとに、留学後の私の出演する舞台を10年近く、ほぼ欠かさず見守って下さっていたお客様のお一人の方から、王子の北とぴあと線路を挟んで反対側に行くと、「石鍋」という昔からあるくず餅や栗蒸し羊羹の老舗があるから、一度、行ってご覧なさい、滋養強壮によいですよ、と教えて頂きました。何とも残念なことに、その方は昨年12月に急逝され、それを私はご家族からの喪中はがきで知りました。
 
とはいえ、その教えていただいたお店には是非、行ってみなくては、と、ようやく今年の二月頃、足を運んでみました。確かにのれんの下がった、甘味処がありました。入口には、なにやら自然の産物の塊が飾られています。よくみると、天草(テングサ)、とありました。寒天の材料になるのですね。
 
イメージ 2
知人のお勧めだったくず餅と栗蒸し羊羹を購入しました。お店を出て、もう一度振り返ると、のれんに「王子稲荷」と書いてあります。はて、お店の名前でないものがなぜ、書いてあるのか、王子、というからにはこの近くにお稲荷さんがあるということか、と思い当たり、ちょうど自転車でお店に乗り付けたところのご婦人に、「王子稲荷」というのはここから近いのですか?と聞いてみる。すると、この道をまっすぐ行くと、幼稚園があります。その上が王子稲荷ですよ、すぐそこですよ、と教えて下さった。なるほど、この通りは、昔は参道だったわけですね。
 
さあて、私の散策好きが始まりました。そのままその足で、王子稲荷を目指しました。すると、出てきました~!いなり幼稚園!バスには可愛らしい黄色いお狐さま!
 
イメージ 3
といってももちろん、これは附属的なもので、元来の目的はお稲荷さんです。実は、お稲荷さんのかつての正門とその周辺の広場が、現在では幼稚園になっているのです。ですから、参拝者はこのバスを横目に路地の坂道を上り、脇の入口から社殿に詣でることになります。
 
 
 
 
 
 
 
イメージ 4こちらが正真正銘のお稲荷さんです。脇の入口とはいえ、きちんと鳥居があり、その両脇に対のお狐さんが鎮座しておられました。2対のお顔の表情が違うのも、ユニークです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イメージ 5本殿もこんなに立派です。ちょっと普通のお稲荷さんとは違うでしょう・・・?!そうなんです、この写真背後に見えている社務所で頂いたパンフレットには、縁起がいろいろと書いてありました。歴史は1000年前にさかのぼり岸稲荷と呼ばれていたそうです。その後、源頼義の奥州追討、平安時代中頃に社格を有し、1322年に紀州熊野神社系の王子神社が周辺に出来たことに伴い、地名が王子となり、稲荷も王子稲荷、と改称されたそうです。小田原北条氏、徳川将軍家とゆかりがあり、三代将軍家光が寛永11年に社殿を造営、その後も5代将軍綱吉や10代将軍家家治が修繕を行い、11代将軍家斉が文政5年に社殿を再建するなど、重要な要所であったことが伺われます。しかし、大戦中、昭和2年4月13日に空襲により本殿が大破しました。現在の社殿は、本殿は昭和の再建、残りの部分は文政5年からのものだそうです。歴史がありますね・・・
 
ところで、先の甘味処「石鍋」の栗蒸し羊羹は、何やら風流な絵を印刷した紙でくるまれていました。そこには小さな可愛らしい、というか神秘的な狐がたくさん描かれています。広げて解説を読んでみると、何と、それは安藤広重の名所江戸百景の一つで、「王子装束ゑの木大晦日の狐日」という絵なのです。さらに、  
 
追々に狐集まる除夜の鐘(子規)
 
という正岡子規の俳句まで添えられているではありませんか。
 
なるほど、王子は昔から、お狐さんの集まる場所で、この絵にある榎の木は王子稲荷と線路を挟んで反対側にあるようです。この木のところに大晦日にはお狐さんたちが集まり、装束を着替えて、王子稲荷に集まったとか、ロマンがありますね。
 
王子稲荷を拝み、小高い丘になっている敷地内を登っていくと、途中、願掛け石のようなものがあり、持ってみて重ければ、まだまだ願い事実現までには努力が足りない、軽ければ、願い事はたやすく叶うでしょう、というようなことが書いてありました。
それでは、と持ってみると、かなりの重さ・・・、その時は2月で、ちょうど6月のリサイタルに向け、準備も本格的にという時だったので、気が引き締まりました。さらに登って狐穴という昔狐が住んでいた、という場所まで確認出来ました。ちょっと登っただけなのに、下が見渡せる(といっても周囲の建物に遮られるので美しい景観とはいきませんが)かなりの高さでした。
 
そういえば、その甘味処「石鍋」で店番をしていた女性は小顔で、きりっとしたタイプの美人でした。ふと、私はそのときに、ここを進めて下さったあの老紳士も、このお店のお姉さんがお気に入りだったのかしら、などと思いながら、さらに稲荷参拝のあと帰途につきながら、その老紳士の方そのものが、考えてみれば小柄で、お顔も細く小さく、タイプが似ていると思い当たり・・・、!!!、もしや、み~んな、お狐さんではなかったかしら?!、という思いに至りました(笑)。こうして私の王子散策は終わりました。
 
いつかまた行ってみたいと思います。これからもご縁がありますように!