復活祭とドイツの春

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復活祭目前の3月末の木蓮の花。ボンにて。

私はかねてからドイツの春は5月に突然やってくるのだと聞いていた。でも実際、ドイツで春が巡ってくるのを3回経験してみて確かなことには、毎年キリスト教の暦によって多少変動はあるものの、3月末から4月上旬に設定される復活祭の頃に突然、陽射しが明るくなり、花が咲き、春らしくなるのだ。復活祭にあわせて自然界の生命も冬の眠りからさめて復活する最初の機会となる。私には、5月の春到来よりも、厳しい寒さから突然明るくなり、丘や山の斜面にも果樹の花が煙るように咲き乱れる復活祭が、「春」の第1声として常に印象に残った。

復活祭休暇にベルギーのご家庭を訪問すべく南ドイツから北へ向かって列車の旅に出た。沿線の町を素通りするのではもったいない。当然、何箇所かで降りた。ボンには研究の目的もあって立ち寄った。バス乗り場であまりの寒さに身を縮ませて「寒い」とつぶやくと、隣に並んでいたおばさんが、「あなた、どこからきたの?ボンは盆地だから、よそより寒いといわれているのですよ。」と教えてくれた。

研究目的の日中の所用を終えて、夜のオペラには完全武装の防寒で出かけた。ロッシーニの「セビリアの理髪師」だった。とても魅力的な演出で、ロジーナの薔薇色の衣装は幕が進むにつれて赤みを増していった。特に第2幕のアリアの演技と歌に、とても密接な関連があって、印象に残った。これ、歌ってみたいなあと思っていたら、その年の夏だったか、南ドイツのオーバーフランケン地方で、私も満員の観客のホールで、演出つきで同じ役で同じシーンを歌う機会に恵まれた。最後の一声が終わると同時に、まさに盛大な拍手喝さいを受けた。私はオペラのアリアを歌ったその場でそんな密度の高い割れるような拍手を受けたのはそれが初めてだったと後で気がついた。今でも夢のようにその時の拍手の音の厚みを記憶している。ロッシーニの音楽にはそもそも聴く者を熱狂させる秘薬が含まれているのかもしれない。