梅干と海苔でなくチーズを?!

ドイツを初めて訪れたきっかけは、あるドイツリートの講習会に申し込んだことだった。期待に胸を膨らませ、7月中旬の出発に備えて格安航空券も見つけ、準備万端の6月のある日、我が家の私の部屋の私の机の下では、猫がお産を初めて、順番に産まれているところだった。そこへ電話の音、階段を駆け下りて、受話器を取るとファックスのピーという信号音が聞こえたので、ファックスに切り替えて、待った。出てきたファックスを掴んで、再び私は猫のお産の立会いのため2階へ駆け上がった。もう3匹目が生まれていた。

そんな最中ドイツ語のファックスを読んでみると、なんでも講師の先生(非常に名高いバリトン歌手)が不運にも足を複雑骨折したため、クラスは中止になったとのこと。お金は戻ってくると書いてあるけれど、私はもう航空券も買ってしまったし、その後、自分の論文のテーマであるシューマン関係の研究所その他に訪問の手はずを整えてあった。だから旅は決行、でも最初の1週間か10日くらいぽっかり予定があいてしまう。旅行会社に問い合わせて出発を遅らせようと思ったら、夏の繁忙期に入るため料金がぐんと上がってしまう。その分で、その期間の滞在費になってしまうくらいだった。そこで多少は出発を遅らせたものの、残りの数日は、まだ行った事のなかった憧れのミラノで過ごすことにした。ミラノではスカラ座のチケットを手に入れ、天井桟敷ロッシーニの「セビリアの理髪師」を見た。ミラノは男の人でも危ないくらいスリの常習犯がいて危険と聞いて、いつもドゥオーモ前の鳩のいる広場を、逃げるように早足で通り過ぎていたら、しまいにはドゥオーモ(大聖堂)の中を見学することなく、ミラノをあとにしてしまった。次回は是非!

ところで、今日のテーマは、梅干、海苔、チーズ。
ミラノ近郊の小さな街に留学している知人を訪ねて、日帰り旅行に出た。オンボロのローカル列車はガラガラ。風景は緑の田んぼに、草を食む牛たち。のんびりぼーっとしていると、とある駅で乗ってきたおじさんが私の脇へ座って、「あんたはジャッポネーゼ(日本人)か?」と聞いてきた。多少のイタリア語はできるから、そうです、と答えると、その後、トークが始まった。

「もっとイタリアのチーズとかハムとかをたくさん食べなさい。梅干とか海苔とかでは、駄目なんだ。」と、私の頭からつま先までを眺めながら言うのだ。別に私のほうから、梅干と海苔ばかり食べていると言ったわけではないのに・・・。要するに、痩せ型の私に、豊満なボディ(body)を得るために、チーズ、ハムを食べるようにとのご助言だった。よくわかりました、どうも、ありがとう・・・。次の駅で私は降りるふりをして違う車両に移った。

う~ん、でも今回オペラで男役をやるときには、いかにしてバストを目立たなくするか、が皆の課題になっているから、そういう意味では、私はちょうどいいはずだ。イタリアの男性には物足りないらしい。あれ?日本の男性にもかな?では、チーズ、ハムをもっと食べます!

結局、私の部屋で、合計4匹の猫が産まれて今も健在だ。聖書には、男の人の骨から女の人を創った、と書いてある。それで、うちの猫たちは、その名バリトン歌手の複雑骨折した骨のかけらから出来ているんだろう、と私は勝手に思うことにした。数年後ドイツで、その先生に直接サインをいただく機会もあったけれど、まさか猫があなたの骨から・・・とまではお話しできなかった。