めざせウィーン世紀末

ベルクの1909-10年作曲の「4つの歌」op.2を昨日の演奏会で歌いました。

10日ほど前だったか、「すかっぱれ」のある日のこと。(スカッ晴れ:この言葉は野球の長嶋監督のお嬢さんがはじめてテレビに出た頃、ニュース番組で使った言葉です。放送用語にはあり得ないけれど、言い得て妙だったこの言葉に我が家のお茶の間は盛り上がりました。)予期せず10月の半ば近くに突然言い渡された突然のプログラム原稿作成(演奏会本番まで1ヶ月半しかなかった!)、執筆の仕事が一段落して、文字通り肩の荷が下りて(まだ校正という冷や汗をかく作業が残っていたのでしたが)、自転車で近所の図書館を目指す事15分!

検索コンピューターで「ウィーン世紀末」と入力すると、200冊くらいのデータが出てきた。その中からなるべく写真の多そうな本を選んでカウンターへ。すべて閉架だったので「これお願いします!」と10数冊の題名と番号のリストを係の方に手渡した。

待つこと数分、地下の書庫から本を出してきてくださった係の方に、「何冊までかりられるのでしたか?」と尋ねると、「無制限です。でも・・・(出してきて下さった積みあがった本の山を見て)、2週間までですけど・・・」(私:「大丈夫です。一言一句全部読むわけではないので。」)

ウィーン世紀末とは、芸術史上では必ずしも厳密な世紀末だけでなく、20世紀初頭も包含しています。この時期のウィーンには、建築、服飾、美術、音楽、哲学(心理学)など種々の分野で、新たな動向が生まれたことで知られています。クリムトの絵は一番有名でしょうか。他にもウィーン工房の服飾、食器デザイン他、興味深いものです。

私が選んだのは、写真や挿絵の豊富な本です。その時代の空気感を感じ取りたかったからです。歌詞と作曲家の残した楽譜から読み取れる限りのことを読み取って、演奏として実現することが、演奏家の使命です。それには、やはり当時の時代精神への理解が不可欠です。

中でも下記の本は、ヨハン・シュトラウスからウェーベルンまで、ウィーンに活動した作曲家たちの生涯が豊富な写真と共に紹介されている名著でした。ベルクの項目には他では見たことのない、ウィーン街中にあったベルクの父の書店の外観や店内の様子、ベルク家の団欒の写真、ピアノに座ったベルクと妹との写真など、写真とはいえ百聞は一見にしかず、これを見て、私のベルクの音楽への感性は非常に刺激を受けました。ベルク夫妻と両家の母合計4人の写真も微笑ましいです。太い木の、無骨な感じの十字架の立ててあるベルク夫妻のお墓の写真と、アルマ・マーラーと恋仲にもなったココシュカの詩入りの絵本の挿絵は、特にこのベルクの歌曲を理解する手がかりとなりました。

「ウィーン音楽地図」競蹈泪麈鼻近代、Christian.M.Nebehay著、白石隆生・白石敬子訳、音楽之友社
1987年。(原書:Wien Speziell Musik um 1900, Christian Brandstatter Verlag & Edition, Wien, 1984)

この本(ドイツ語の原書)は出版当初、ウィーンでベストセラーになったそうです。すでにご存知の方も多いのかもしれませんね。

それにしてもお仕事って大変。いつも限られた時間の中で大事なことを処理しなくてはなりません。15分のミーティングでプログラムページの書き方をみなさんのご意見を伺いながら1、2分で校正し、そのまま廊下を走って授業の通訳に飛んでいったり、というように、とにかくその場の瞬間の注意力で責任あることを処理しなければならない、という事態に多々遭遇しました。学生時代ののんびりと何度も牛のように?!「はんすう」しながら自分の研究テーマだけを扱っていた幸せを思いました。ふう・・・。社会人初心者には大変なことは山積みです。しかし、こういうふうに演奏以外のことで集中力を鍛錬することも、演奏家としての集中力の鍛錬につながっていれば嬉しいなあ、と慰めのように思います。本当は演奏に関することだけで鍛錬したいのですけれど、現実は厳しいのでした。でもこれも人生の旅路と思ってviaggioしま~す。