ドイツ語の読書

留学から帰って以来、2年と少しの間、大学のドイツリートの解釈・演奏法の公開レッスン形式の授業で、ドイツ語―日本語間の通訳をする機会を与えられてきました。音楽家の私が、まさか通訳としての訓練を受けた経験は皆無で、ある日から突然、二つの言語間を行ったり来たりしてコミュニケーションの間に立つ、という行為は、決して楽ではありませんでした。ですから、この夏、ドイツへ一人で出かけたときには、ドイツ語が聞こえてきても訳さなくてよいことに、とてつもなくほっとしたのが正直なところです。

ところで、この通訳のお仕事が一段落するころ、急にドイツ語で本が読みたくなりました。留学から帰るときプレゼントでもらったドイツ語の本など、殆んど読まずに棚に並んでいたものを、ふと手に取りたいと思うようになりました。

それで驚いた事には、以前よりすらすらと読めるようになっているではありませんか。通訳をしていたことが、自然に文章を読むときの理解力をも高めてくれていました。「苦労は買ってでもしろ」とはよく言ったものです。新しい楽しみが与えられたのですから。