ドイツと地続きの北欧

私は北欧には行ったことがありません。でもワイマールのマスタークラスで、もう少しでデンマークとの国境という街の出身だと語るソプラノ歌手と知り合ったとき、ドイツも北に行くと、北欧につながっているのだな、とあらためて実感しました。

ワーグナーの「ニーベルンゲンの指輪」でも知られるニーベルンゲン伝説は、北欧スカンジナビア半島に伝わるものです。カロリーネ・フォン・ギュンデローデというドイツの女流作家による「スカンジナビアの予言」という短い韻文作品があります。この作品は、ワーグナーのオペラの登場人物ヴォータンをOdin, その妻フリッカをFriggaと記すなど、スカンジナビア地方にこの物語のルーツがあることに思い至らせてくれます。

ところで、ワイマールのマスタークラスのあと、スイスへ南下する列車の旅で、ミュンヘンで途中下車して中休みをとりました。ビールの老舗ホーフブロイハウスでたまたま同席したドイツ人の家族連れご一行様は、マルティン・ルターとニーベルンゲンの街ヴォルムスから来た、と話してくれたのを思い出します。中世ドイツに成立した「ニーベルンゲンの歌」はヴォルムスやその周辺を舞台としていました。

ニーベルンゲン伝説の二つの発祥の地、北欧とドイツのヴォルムス。それぞれの地を思わせてくれる人にひと夏の間に出会ったのも、旅の成せる不思議な技でした。