ムンクの色彩

ムンク展。
色が鮮やかですばらしい。
いつだったか流行にもなったムンク「叫び」、として知っていたのとは違う、鮮やかな陽光の世界もあることを知った。そして、出口近くのショップに並ぶどの絵葉書を見ても、オリジナルで見た色と違うので、とてもその絵から程遠く、満足がいかない。それほどにムンクの色は、その絵の印象に決定的な要素であった。

ムンクがドイツの友人から子供部屋のために、と頼まれて描いた連作リンデ・フリーズ。これがその究めつけだ。しかし、その中の絵が公園のベンチで抱き合う男女などを含むため、依頼主は子供部屋にふさわしいもっと単純な風景画みたいなものにして欲しいと要望、それでもムンクが応えなかったので、結局、これらのフリーズはムンクのもとに返されたと解説にあった。

7枚のフリーズのうち、それでも「浜辺の若者たち」と「浜辺のダンス」の2作品にはムンクに典型的な暗さ、不気味さが漂う。私が一番好きなのは、青い海の色が美しい「浜辺の木々」だ。絵の具の青に白を混ぜていくといろいろな水色ができる、そんな絵を描いた時間の楽しい一場面を思い出した。

「果樹を収穫する少女たち」に、色とりどりの洋服を着て、果樹に手を伸ばす少女たちの姿が、まるで果実のようだ、と誰かが言ったそうだ。レスピーギの歌曲「昔の歌に寄せて」には、最後の方に、こういう光景がやはり歌われている。働く女性の姿は、時に、生命の象徴と感じられるようだ。

ムンクムンク、私が心引かれる北欧の画家ムンクオスロの王立美術学校を出て、オスロを拠点とした画家だ。80歳まで生きた。(1863~1944)

今回のムンク展のテーマは、装飾芸術としてのムンクの絵画。つまり個人の家や、大学講堂、市庁舎などの壁画として、その空間に幾つかの絵を配置する、そのアレンジまでを含めたムンクの活動記録だ。

この秋、ある施設の廊下に、複数の絵を並べ順を考えながら飾るのを、おしゃべりしながら手伝ったことがあった。ムンク展を見に行って、非常に時事的な経験だったなあ、と思いだした。

絵というものが、単体の静止物としてではなく、まさに躍動するようなエネルギーを発しながら空間を形作る様は、音楽的でもあるような気がする。