ブクステフーデの楽譜とご縁いろいろ

ブクステフーデの受難曲「われらがイエスの四肢」のヴォーカルスコアを私は2冊持っている。その経緯は前に書いた。シュトゥットガルト(厳密にはその郊外で飛行場のあるエヒターディンゲン)のカールス社版とベルリンのメルセブルガー社版である。
 
ぱっと見た目が見やすい楽譜、という観点と、自分が留学で2年半暮らした馴染みのシュトゥットガルトに縁のある版ということで、とっさに私はベルリンの音楽ショップでカールス版を購入して帰国したのだったが、先日の明治学院での演奏会にあたっては、メルゼブルガー版とのこと、楽譜を新たに拝受、使わせていただいた。
 
今回の演奏会で指揮をされた樋口隆一先生のプログラムノートに、メルゼブルガー版とのご縁についてのコメントも付いていた。何でも、メルゼブルガー版の校訂者キリアン博士は、樋口先生がゲッティンゲンのバッハ研究所の「新バッハ全集」のお仕事に携られた折に、先輩研究者として「新バッハ全集」に取り組み、オルガン曲を中心に多くの巻を校訂された方で、恩人とのこと。そのキリアン博士はブクステフーデの声楽曲に関する論文で哲学博士号を取られた方であった、ということだ。そんなわけで、私も今回のブクステフーデ演奏会でこのメルゼブルガー版の楽譜を手に、そのご縁の末端に加わることになったわけで、何とも嬉しい、光栄なことである。
 
ちなみに私がどんなにバッハ・ファンかは、このブログの最初のほうの「きゃ~、バッハ様~!」の台詞でもご理解いただけると思う。樋口隆一先生なる方を最初に知ったのも、私が中学生の頃に手に取った、新潮文庫から出ているカラー版作曲家の生涯「バッハ」(樋口隆一著)だった。その後、一万円札の福沢諭吉さん(関係者は先生と言うべきところ)の創った大学に進み、1年生で履修する教養科目を選ぼうと講義要綱を眺めていると、この樋口先生の「音楽」なる授業があった。内容はバッハ、参考書はこの文庫本ともう一冊前にもこのブログに紹介した「ドイツ音楽歳時記」だった。もちろん迷わず、この講義に登録、毎週楽しみに大きな階段教室に学生の1人として通った。それからとき遥かに飛んで、私が音楽、声楽を専門にするようになり、ドイツに留学もして帰ってきて、やれやれと落ち着いた頃に、一昨年のヘンデルメサイア」、そして今回のブクステフーデと、今度は指揮をなさる樋口先生と共演させていただく、という形で改めて出会おうとは、人生におけるご縁とは本当に不思議でありがたく、そして、面白いものであると思う。感謝しつつ・・・。