フリーデマン・バッハ生誕300年記念ゲヴァントハウス室内楽演奏会2010

イメージ 1昨年20101114日、ライプツィヒのゲヴァントハウスのメンデルスゾーンホールにて、1117日生まれの大バッハの長男、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ生誕300年を祝う室内楽演奏会を聴いた。18時開演。
 
大バッハの息子は末息子のカール・フィリップエマヌエル・バッハが一番有名であるが、長男はこのフリーデマン・バッハであった。ハレ近郊の街レーベユンでのレーヴェ祭の初日、「音楽の道」オープニングの記念式で演説をした、ザクセン・アンハルト州の役人のおばちゃんのお話にも、ザクセン・アンハルト州にはレーヴェのみならず、ヘンデルフリーデマン・バッハなどなど、誇るべきゆかりの音楽家が多くいます!とあったから、演説の直後に、「私、このあと、ライプツィヒでフリーデマン・バッハの演奏会に行こうと思っているんです!」と話しかけた。このおばちゃんもその演奏会があるということはご存知だった。「それはいいに違いないわよ!」とのこと。そこで、私は、「ポツダムで王様に仕えたカール・フィリップ・エマヌエル・バッハのほうは有名ですが、どうして長男のフリーデマンさんはそれほど有名にならなかったんでしょう?」と聞いてみた。私に返ってきたお返事は何と、「フリーデマンは才能はあったんだけど、大酒のみだったから、ちょっと社会的名声を得にくかったんですよ。」というもの。そんな裏話があったとは知らなかった。開演前の数分に、この演奏会のプログラムに目を通すが、まさかそこにはそんな不名誉なお話は見当たらない。お酒が好きだったらしい、の一言くらいあってもよさそうなものだが・・・笑・・・
 
この演奏会の出演者は下記のとおり。
Katalin Stefula(フルート)、Rosalia Szabo(フルート)、Julius Bekesch (ヴァイオリン)
Alexandra Bekesch (ヴァイオリン)、Katharina Dargel (チェロ)、Rainer Hucke (コントラバス)、Michael Schoenheit(ハンマークラヴィア)
 
フルートが活躍する作品の多いプログラムで、二人の若いローレライのような金髪の美女が2本のフルートを担当していて、女性の私が見ても、そのブロンドの髪が美しくなびく姿は出入りも含めて、なんとも美しい眺めだった。経歴を見ると、1人は2002年からゲヴァントハウス・オーケストラの第一ソロフルーティスト(ブラティスラヴァの音楽院出身)、もう1人(ブダペストの音楽院出身)は同じく2002年からドレスデン・シュターツカペレのソロフルーティストをつとめている。実力と、また世代交代というタイミング故なのか、随分と若いうちにそのように名門オーケストラに入れるものなのだ、と思った。ヴァイオリンを弾いていたのも2006年からゲヴァントハウス・オーケストラで第一コンサートマスター副主席をつとめている1979年生まれの男性で、こちらも若い。コントラバスは、ベテランで、1978年からゲヴァントハウスで第一ソロコントラバス奏者を務めている人である。それ以外に、チェロの女性も1989年からゲヴァントハウスのメンバーとある。
 
つまりゲヴァントハウスのメンバーが主体となって、古楽の専門家も入っての、フリーデマン・バッハ生誕300年を祝う室内楽演奏会である。曲目は下記のものであった。
 
・ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ (1710-1784
「2つのフルートのための二重奏 変ホ長調」 F55
ヴィオラとピアノのためのソナタ ト短調  Wq88
・ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ
「フルートと2つのヴァイオリン、ヴィオラ通奏低音のための協奏曲」 F15c
 
*****休憩*****
 
「2つのフルートのための二重奏 変ホ長調 F56
・ヨハン・ゴットリープ・グラウン(1701-1771
ヴィオラとピアノのためのソナタ ハ短調
(フリーデマン・ブラウンによる加筆あり)
・ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ
「2つのフルート、2つのヴァイオリン、ヴィオラ通奏低音のためのアダージョとフーガ ニ短調」 F65
 
演奏はとてもみずみずしく快活で、バロック音楽が水を得た魚として泳いでいる場に幸運にも立ち合わせていただいたような感じで、とてもよかった。
 
写真は休憩時間に一番後ろの通路から個人的に撮影したもの。
 
この休憩時間、私はひとりでサンドイッチを一つ買って食べた!ドイツの小さなまあるいパン、ブレートヒェンにハム、チーズ、レタスなどが挟まっているごく普通のサンドイッチが200円くらい。日本のホールでクニャクニャのパンのサンドイッチを買うと、もっと高いなあ、と思ったりする。
 
そもそも、この日の午後まで私は、カール・レーヴェの故郷であるレーベユンにいた。レーヴェ祭の最終日のマチネーでの行事まで参加してハレの駅に車で着いたのが14時半頃だったか。それからライプツィヒへの列車のチケットを駅で買い、ホームまで走ってぎりぎりセーフで乗り込んだ。これに乗らないと、ライプツィヒ18時からのこの演奏会に行く前に、17時までしか開いておらず、翌日の月曜は休館日というシューマンハウスを見学できなくなるから、大変だ。無事、ライプツィヒに到着、宿に荷物を置くと、とるものもとりあえず外出、徒歩でシューマンハウスに向かう。先の記事の通り、無事に見学を済ませ、そこから徒歩10分ほどで夕暮れ時のゲヴァントハウス前につく。当日券を無事、購入。11ユーロと9ユーロと2種類だけ。その2ユーロを節約して、9ユーロのチケットを買った。11ユーロの席との境目に近いような、なかなかよいお席だったからだ。前から5列目すこし横だが真ん中のブロックと通路を挟んで2席目くらい。
 
チケットを手にしたあと、開演時間までの数十分、10年ぶりくらいの、懐かしいバッハのトーマス教会に向かって、夜の街を歩く。人が多く賑わっているから、ひとりでも逆に、そんなに物騒ではないだろうと思いながら早足で。途中何か1人で食べられそうなお店があったら入ろうか、と考えてもいたが、結局は、何も食べないままホールに戻る。それで休憩時間にはさすがに空腹を感じ、サンドイッチを食することになったのである。
 
またロビーには、ライプツィヒ市だかザクセン州だかが、クラシック演奏会への助成金を削減する方針を掲げていることに反対する署名用紙が置いてあったりして、どこも似たようなご時勢なのだなあ、と感じたりもした。
 
休憩時間が終わるので席に着いたころだっただろうか。お隣の女性とよいコンサートですね、と自然におしゃべりが始まった。髪の毛がバリバリのショートカット、ジーンズのようなものをはいた今風の、でもそこそこ年配の女性。お席が離れているけれど、お友達夫婦がご一緒で、休暇を利用して旅行中とのこと。ミュンヘン郊外からいらしている方だった。そうこうするうちに演奏が始まる。終演となり夢中になって拍手をしながら、「よかった、よかった!」とすっかり意気投合。それで、「あなた、これからどうするの?」と聞くので、「あとは宿に帰って休むだけです」と言ったら、そのお友達夫婦と一緒に軽いお食事に行くことにしているからよかったら一緒にどうですか?とお誘いいただく。それでホールのロビーに出たところで、そのお友達ご夫妻を待つ。あちらは、突然、東洋人の連れを伴っているこの女性を少々、びっくりまなこで見ている。それはそうだろう。彼女が私を紹介してくれると今度はドイツ語会話が忙しくなる。まずはいろいろお互いに説明することがたくさんあるから・・・笑・・・何で今ここに居るのかとか、何でドイツ語話せるのか、とか、そうすると留学した話になったり、演奏会した話になったり・・・、あちらの住んでいる街の話になったり。とにかく皆それぞれクロークで上着をとって、いざ外へ。なぜかこのとき私はコートを着ていなかった。この日はめずらしく春のような陽気で、ジャケットで充分だったのだ。寒がりの私がそういうのだから、本当だ。それに反し、旅行中のこの方々は、ダウンジャケットみたいなものを真冬日と同様に習慣で着込んで外へ出る。
 
入ったのは、ゲヴァントハウスを出てすぐ左側に見えてくるイタリアンのセルフサービスのお店。ドイツではチェーン店だそうだ。気楽に、手軽に食べられてよい。今日は1人だと思っていたから、さっき休憩時間に夕食がわりになるようにとサンドイッチを食べてしまったのだが、こうなると別腹!思いがけず、みなさんと楽しい夕食になり、感謝。
 
いろいろな話題になった。日本では西洋のクラシック音楽の演奏会に、本当にお客様は来るのか、とかそんなこともあった。ドイツでも現在、若者のクラシック離れの現象も少なからずあり、簡単ではない、などなど。メールアドレスを交換して、それぞれ別方向に乗る市電の駅で、待っている間に記念撮影!その後、私が先に来た電車に乗り込むのをお見送りいただく形でお別れとなった。その駅には切符売場がなかった。今は車内で買えるタイプの車両があるようだ。乗ったら、中に機械があるから、そこで買いなさい、とのこと。いざ電車に私が乗るだんになると、皆一緒に乗ってきそうな勢いで列車のほうに体を揃って傾けると、ほらっ、あそこに機械見えるでしょ、あれよ!!と、オペラ・ブッファのアンサンブルの一場面のような賑やかさ(笑)。ご心配をおかけしました。私もいい大人なのですが・・・笑・・・こういうご厚意には本当に心が温まります。電車の中で無事に機械で切符を買った私を、その乗車の際の様子を見ていたドア近くに立つご婦人が微笑みながら見守って下さっている事にも、買い終わったとき気がついた。
 
以上が昨秋のゲヴァントハウスの思い出である。フリーデマン・バッハさんに感謝!生誕300年、おめでとうございました。私も同じ11月生まれですっ!お酒も好きかもっ!(この日は私はお酒は飲みませんでした。翌朝、早く起きてベルリンへ移動する予定でしたので。)
 
最後に、これは幸運にも私が体験したよいお話ですが、基本的には外国旅行で、初めて会った人にそう安々とついて行くことはお勧めいたしません。かつてミラノやローマを1人で歩いたときの私のように「人を見たら泥棒と思え!」、とまでは申しませんが、皆さん、ご旅行の折にはくれぐれもご用心下さいね。