聖書のお話

シューマンとカール・レーヴェは、シューマンのほうが14歳若いが同時代に生きた同時代人であった。
 
シューマンの主宰した「新音楽時報」の最初の号に、カール・レーヴェのオラトリオ「青銅の蛇 Die ehrne Schlange」についての文章が(シューマンの筆ではないが)取り上げられている、と、先日、手にしたドイツの高名な音楽学マルティン・ゲック氏による新しい本「シューマン」(ドイツ語版)で読んだ。
 
はて、このオラトリオの題名をドイツ語で見たとき、何の事やらすぐにはわからなかった。蛇だけど、何とかの蛇・・・なんだろう、そう思ってネットで原語のまま検索してみると、どうもこの言葉は、4.Mose, 21, 8, 9というところに出ているらしい。では、この暗号のような数字と文字はいったい何なのか。Moseというので、あっ、これは旧約聖書に出てくる、映画にもなった人物モーゼのことかな、と思う。
 
そこで、中高時代、学校の礼拝で毎朝使った聖書を本棚から久しぶりに取り出してみる。目次を開く。特に、旧約聖書の部分。しかし、モーゼという書は出ていない。まあ、創世記のことかもしれない、くらいの想像はつく。一緒に、ドイツ留学中に購入したドイツ語の聖書も引っ張り出してみる。比べながら驚いたことに、ドイツ語の聖書にはちゃんとMoseモーセという書がある。しかも5つも!旧約聖書はこの5つのモーゼの書ではじまり、次にヨシュア記が続いていることから、この5つは日本語の旧約聖書でも最初の書である創世記からヨシュア記が来るまでの間にある、創世記を含む5つの書に対応しいているのだろう、と推測できた。創世記、出エジプト記レビ記民数記申命記の5書である。そうなれば、4.Mose, 21, 8, 9、 つまりモーゼの4つ目の書の第21章第8、9節のところに、問題の「Die ehrne Schlange」が出てくるはずである。民数記のその箇所を見てみると、ドンぴしゃり、ドイツ語の聖書と対応して、日本語版にこれに関する記述が見つかった。
 
"Eie ehrne Schlange"は「青銅の蛇」、と訳されていた。なるほど、ドイツ語の辞書にehrnは文語で「青銅の」という誌的に用いられる形容詞であるとも出ている。(ちなみに日本語版では、第8節では「火の蛇」と言われ、第9節では青銅の蛇となっている。ドイツ語版ではどちらも同じeine ehrne Schlangeであるのに。こういったことは、日本語版聖書が数多くある聖書からどれを出典としているか、にもよる違いなのかもしれない。ときどき、この私が今持っているドイツ語版の聖書と日本語版の聖書には、このような小さな違いを発見することがこれまでにもあった。しかし、まあ、それは些細なことである。)
 
そもそも私の聖書の目次には、この最初の5つの書のタイトルを鉛筆でひとくくりにして印がつけてあるから、昔、中学高校の聖書の時間には、きっと習ったことなのだろう、と思えてもきた。はるかかなたな殆ど覚えていないような記憶・・・
 
結果、このレーヴェのオラトリオはこのモーゼの書に出てくる物語を取り上げたものではなかろうか、と考えるに至る。楽譜をまだ手にとったことがないので定かではないが、とりあえず、こんな楽しい音楽、聖書の旅のひと時を調べながら味わった。
 
ちなみにこの聖書の箇所の内容は下記の通りである。
 
蛇にかまれてイスラエルの民が多く死んでしまったとき、モーゼが神に祈った。すると、神はモーセに青銅の蛇(この部分が日本語訳では「火のへび」となっている)をつくり、それをかまれた者が仰ぎ見れば、生きるであろう、と言われた。モーゼは言われたとおり青銅の蛇をつくり、それをさおの上にかけておくと、これを見た、蛇にかまれた者は生きた。