万霊節の日に

最近、電車に乗る日が増えて、おかげで昨年の夏以来、読んでいたダンテの『神曲』をついに読破しました。昨夏、「地獄編」、ついで「煉獄編」、その後、「天国編」を読み始めたところで、なぜか穏やかな天国は、さして問題ないような気がして安心してしまい、「天国編」にしおりを挿んだままになっていました。それを最近の外出時にバッグに入れるようになり、ついに今日の帰り道の座席で、「天国編」の最後まで読み終えました!
 
ダンテの『神曲』は文学史上、あまりにも有名なこの作品ですが、特に文語体での日本語訳では、私にはとても難解でした。以前に、イタリア語の授業で原文を読む機会があり、神田の古本屋でたまたま、岩波文庫、山川丙三郎さんという方による訳の文庫版を「地獄編」のみ入手していたものです。ドイツ留学中の年末年始に訪れたフィレンツェで、荷物が重いのでどれか一冊!ということで、「煉獄編」の原書を自分のお土産に書店で購入して持ち帰ったものも手元にあります。今回読んだ訳(河出文庫平川祐弘訳、全3巻)はとても口語的なやさしい日本語で、注釈にあるような深い意味合いまでの理解はさておいたとしても、とりあえずの字義どおりの理解の範囲では、とてもすんなりと読むことができます。ギュスターヴ・ドレーによる挿絵も、フィレンテェの原書と同じように入っています。昨年夏の有明ビッグサイトでの国際ブックフェアの河出書房のブースで買い求めました。
 
ダンテが自分の筆を以ってしても、とても描ききれないと書いた、幻想的な美しい天国の光景に、電車の揺れとともに誘われつつ、今日のリートの授業の教室に着きました。例の、私が通訳を仰せつかっている授業であります。今日は5人の学生さんたちが1曲ずつリートを公開授業形式でレッスンを受けました。その中に、シューベルトの<万霊節の連祷>がありました。そこでは、カトリックの連祷というのは、同じメロディーで歌詞が何節もあるこの歌曲のように、繰り返されるお祈りで、そのうちにトランス状態になるような性質のお祈りである、とのお話にもなりました。そして、今日、11月2日はちょうど万霊節にあたると、学生さんからのエピソードもあり、ダンテ~カトリック~万霊節と、何かカトリックの世界に誘い込まれた一日になりました。
 
ところで、10月31日から11月2日までは一連の行事が続きます。
つまり、10月31日のハロウィーン及び宗教改革記念日、11月1日の万聖節、そして、11月2日の万霊節です。
 
10月31日のハロウィーンは、パーティに備えたかぼちゃのモニュメントやお菓子が巷に出まわり、すっかり俗っぽい、といいますか、遊びの行事のように思われますが、もともとはヨーロッパのケルト民族による収穫感謝祭だったようです。(現在のアメリカでの収穫感謝祭は、Thanksgiving Dayとして別に11月23日頃にあります。)このブログでも以前に、11月初めのドイツの教会広場に、かぼちゃや野菜が飾られていたことをご紹介しました。ケルト民族では11月1日が新年の始まりで、その前日にあたる10月31日の夜には、精霊や魔女が出てくるとされ、それを追い払うために仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いたりしたと言われています。つまり、ハロウィーンでくりぬいたかぼちゃに蝋燭を灯したり、お化けに変装して巡ってくる子供達にお菓子をあげて、帰ってもらったりするのは、そんな魔除けの習慣の名残であると考えることができそうです。(他にも諸説あり。)
 
この10月30日、私は所用で原宿に出向いた帰りに、裏原(原宿、表参道の裏通りにある路地のこと)で、以前にも行ったことのあるアジア系のお店に立ち寄ったところ、偶然、オレンジ色のもの10パーセントオフ!というハロウィーンのかぼちゃにちなんだセールに出くわし、小さなポーチを入手しました。(手作り風、472円也!)ちゃっかりハロウィーンの恩恵にあずかりました!このポーチには昨年から愛用している小さなデジカメがちょうど収まりました。ソニーサイバーショット、レンズはイェーナに記念館のある、ドイツの歴史的なレンズ職人カール・ツァイスのブランドです。
 
ちなみに10月31日はプロテスタント教会では宗教改革記念日です。マルティン・ルターが1517年のこの日、これを買うと天国に行けます、というような内容の免罪符の販売に反対して、ウィッテンベルク城に95か条の論題を貼り出し、その結果、教皇と対決するに至り、宗教改革の発端となりました。ルターもすごいタイミングで重大発表をしたのです。続くカトリックの2つの祝日の前日を選んだのにも、何か意味があったのかもしれません。写真は昨秋、ライプツィヒからベルリンへ戻る電車がちょうど停車したヴィッテンベルク駅の駅名表札です。ちょうど窓から見えたのでカメラに収まりました。「ルターの町 ヴィッテンベルク Lutherstadt Wittenberg」としっかりルターがアピールされています。2017年には宗教改革500周年の大きな記念の年を迎えます。
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さて、話題はカトリックに戻りますが、11月1日は万聖節で、すべての聖人たちのための祝日です。ケルト民族にあっては、この日がお正月、つまり一年の始まりの日であったそうです。そして翌11月2日は万霊節。これはプロテスタントの国や地域にも残り、すべての死者のための祝日で、日本のお盆のように、お墓にお花を捧げたりします。このシューベルトの歌曲もそうですが、リヒャルト・シュトラウスの歌曲<万霊節>はもっとポピュラーでしょうか。所変わっても、今は亡き人を偲び、思いを馳せる、という私たちの習慣には変わりはないようです。
 
現在のドイツでは、手帳などには10月31日宗教改革記念日、11月1日万聖節、11月2日万霊節、と印刷されています。このうち11月1日の万聖節は、カレンダー上も祝日扱いになってお休みになります。
 
日本では、これら一連のヨーロッパの祝日に続く11月3日が元明天皇のお誕生日、現「文化の日」で祝日です。裏原のハロウィーンセールでポーチを入手した10月30日の表参道大通りは、すでに文化の日モードで、「奉祝明治神宮」の提灯がずらりと並び、日の丸が掲げられていました。
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今朝の新聞には秋の褒章受賞者名も列記されていました。そして3日は私の誕生日でもあります。お世話になって来たすべたの方に感謝しつつ・・・。