園田高弘さんの2枚のCD

園田高弘さんの2枚のCDを先日来、聴いていた。「若き日の軌跡」と題されたこの2枚のCDには、華麗なピアノ曲ばかりの録音が収まっている。Ⅰには、ラフマニノフ<ピアノ協奏曲第3番ニ短調>作品30、ストラヴィンスキー<4つの練習曲>作品7、グラズノフ<ピアノ・ソナタ変ロ長調>作品74が、Ⅱにはラヴェル<ピアノ協奏曲ト長調>、ラヴェル<水の戯れ>、ドビュッシー<6つの練習曲 第一巻>、サン=サーンス<ピアノ協奏曲第4番ハ短調>作品44が収められている。それぞれの解説書には、私には懐かしいSWRの文字もある。つまり、これはSWR(南西ドイツ放送)の放送交響楽団(現在のシェフはサー・ノリントン)との放送録音からの記録である。指揮はラヴェルの協奏曲がエルンスト・プール、それ以外はすべてミュラー=クライで、すべて1960年代の録音だ。園田さんご自身による解説は平成13年のもの。
 
高名なピアニストだが、渡仏されての勉強、ドイツでのご活躍など、活躍の場が日本に限られなかった方で、何か別世界の方であるような印象を持っていたが、実際このCDに聴こえる演奏からも、何か、この世のしがらみを超越しているような感じを受ける。素晴らしいことだ。
 
留学中、私の所属していたシュトゥットガルト音大のリートクラスによる、マックス・レーガーの歌曲演奏会は、そのSWR放送で録音され、後日、抜粋で放送された。私の演奏もその中にあった。そのとき放送に流れた演奏は、放送局が演奏者ひとりひとりにCDコピーを用意してくれていて、大事に日本へ持ち帰った。
 
ついぞ生演奏をお聴きする機会がなかったのが残念であるが、昨年、私がリサイタルで訪れたボン、ベートーヴェンハウスの室内楽ホールが、21年前にオープンしたときの杮落とし公演では、園田さんが演奏されて、それを日本からボンまで聞きにいらしていた、という日本の方が、とある会合の席で私にお声をかけて下さったのも、ついこの夏のことである。それで、園田高弘さんとは、こういう方だったのか、とこのCDの演奏と解説を通して想像し、感慨にふけってしまう。
 
私たちがヨーロッパで何かしようとするとき、偉大な日本の先人の存在が、私たちへの信頼の元になっていることを感じ、ありがたく思うことがあったが、園田さんの録音を聞きながら、改めて、またそんな思いに至った。