セガンティーニとの再会

イメージ 1イメージ 2先日、東京新宿の損保ジャパンビルの中にある東郷青児美術館にて、セガンティーニの絵を見た。セガンティーニは私にとって、スイスへの旅と結びついて、思い出深い画家である。
 
以前にもこのブログに、ワイマールでの生き返るようなマスタークラス参加のあと、かつての長期留学中、私の演奏会に欠かさずいらして下さって、よき話し相手でもあり、助言者でもあった一人のおばさまが、毎年、夏のヴァカンスを過ごしておられるスイスのエンガディン地方へ向かったことを書いた。
 
お若いころから、たびたび、そのエンガディンを避暑地としておられて、登山も含めてそのあたりのことを知り尽くしているこのおばさまは、数日間の私の滞在中に見せたいものを、紙に鉛筆で書いてリストアップしてあった。そのうちの一日は、隣町であるサン・モリッツのセガンティーニ美術館を中心とした地域の散策だった。
 
かくして私は、セガンティーニに彼の本拠地で出会った。セガンティーニはイタリア生まれの画家で、フランスの印象派の点描画法に対して、イタリアで線描とでもいうべきかのような分割画法をリードした。近くで見ると細い様々な色の線で描かれている山肌や空が、遠くから見るとそれらの色が混じりあい、また、陽にキラキラ光っているような効果を持って見えるのだ。彼は最初からこの画法だったわけではない。出身地の北イタリアからだんだんに標高の高い地域へと住まいを写していった彼だが、特に、その標高の高いスイスの風光明媚な土地で描き出したころから、その作風が目立ってくる。まさに空気の澄んだ、紫外線の強い、標高の高い土地に独特の陽射しが生んだ画法だったのかもしれない。
 
今回の東京でのセガンティーニ展には、その懐かしいセガンティーニ美術館所蔵のものばかりではなく、スイスのチューリヒやミラノの美術館など各地から集められた多岐にわたるもので、とても充実していた。なかには日本の美術館が所有しているものもあって驚いた。
 
今でも電話や手紙で音信のある、そのドイツのおばさまに導かれるように出会ったセガンティーニの絵を、私はこの機会に是非とも日本の「実の母」と一緒に見たいと思って、母を連れて足を運んだ。
 
瑞々しいセガンティーニの最盛期の色彩は実に美しく、心を潤わせてくれる。実は、ワイマールのあとにスイスに向かったあのときの一連の旅は、留学から帰国後の2年と数ヶ月の間、継続していた大学のドイツリートの授業の通訳の仕事が終わり、まさに通訳明けの夏休みのことだった。そして、奇しくも今回もまた、久しぶりに来日された師の、大学での2ヶ月のドイツリートの公開授業での通訳の仕事が終わった直後に、私はこれらのセガンティーニの絵に迎えられた。こうして、前回のスイスでも、今回の東京でも、私はセガンティーニの絵に心底から癒された。
 
こうして山岳の画家セガンティーニからエネルギーをいただいて、私は次の演奏会に向けて始動している。また皆さんと舞台でお会いできる時を楽しみに・・・。
 
*このセガンティーニ展は今年2011年12月27日(火)まで損保ジャパン東郷青児美術館(地上42階)で開催中です。