「ナクソス島のアリアンナ」と作曲家たち

4月のリサイタルでプログラムに取り上げて演奏させていただいたハイドン作曲のソロカンタータナクソス島のアリアンナ」は、リヒャルト・シュトラウスの同名のオペラ(ドイツ語なので、アリアンナはアリアドネとなる)で一番有名かもしれないが、今日、もうひとり、この題材でオペラを作曲した作曲家が居たことを知った。それはハイドンが若き日に伴奏を務めながら学んだ声楽家兼作曲家のポルポラである。ポルポラのオペラ作曲のことは、戸口幸策さん著「オペラの誕生」(平凡社)に記されていて、今日、そのページが目に留まった次第だ。
 
ハイドンがこの題材を取り上げてソロ・カンタータにしていたことをとても興味深く思っていたが、師ポルポラが同じ題材でオペラ・セーリアを作曲、1733年にロンドンで上演までされていた、とは驚きだ。ポルポラはそれこそ、アレッサンドロ・スカルラッティが道を開いたイタリア・オペラのナポリ楽派が最盛期を迎えた時期を代表する作曲家のひとりで、ナポリヴェネツィア(ここ数日、大雨による浸水被害のニュースが伝わってきて、痛ましい思いのする「水の都」)のみならず、そのオペラが上演されたロンドン、その地ですでに活躍していたヘンデルを前にヴェネチアに一度戻ったのち、1750年代にはウィーンで活躍した。そのウィーン時代にハイドンはポルポラの伴奏者を務めながら学んだわけだ。ハイドンが後年、1789年になって、同じ「ナクソス島のアリアンナ」を題材に声楽曲を書いたのは、偶然ではなく、どこかに師の作品による刺激もあったに違いない。人生における、縁、出会い、とは、まったく面白いものである。