写真に撮らなかった風景

夜のグラーベン通りをシュテファン広場を背にして歩いていると、あまりカラフルではなく、むしろ普通の電球の色にほぼ統一された、美しいイルミネーション飾りを見上げて、とても優雅な気分になった。ふとお店の並びが途切れて、右に入る小道があった。そこを覗くと、ど~んと大きな教会がすぐ真正面にそびえ立っていた。これがウィーンで2番目に古い、というペータース教会だ。普通の教会は、広い広場に面していたりして、大抵、見通しのよいところにあるのだが、このペータース教会は路地の折れ目にぴったり合うように建っていて、とても奇異な感じがする。教会の前後左右すべてが普通の小さな路地で囲まれているのだ。石の街ウィーンの真ん中にポツンと島が浮かんでいるかのようでもある。
 
人がゆっくりと出入りしていたので、中を覗いてみると、パイプオルガンの演奏の最中だった。知人と別れてから、またこの教会に戻ってみると、ちょうど演奏が終わったところで、拍手がなっていた。見上げると、2階のオルガンのあるバルコニーから演奏者が姿を見せて、拍手に応えていた。まだ何かあるのかなあ、といっぱいの座席の中に空いているところを見つけて、座ってみる。でも次第に人々は、終わったのかな?という風情で立ち上がり始める。それでは、と私も、この教会の中を一巡りさせていただく。立派な絵や天井や、とにかく豪華絢爛、というか隙間のないほどに何かが施されている内装に圧倒されながら一周すると、出口に戻って来た。
 
この日の午後に演奏会をさせていただいた、740年に最初の記録が残っているという、ウィーン最古の教会である聖ルプレヒト教会のシンプルな佇まいとは、随分と趣きが違う。調べてみれば、なるほと、このペータース教会は創始は9世紀のカール大帝の頃のためウィーンで2番目に古い、と称されるが、内装が完成したのは1708年とガイドブックにある。なるほど、1708年といえば、バロックも終わりの頃、そういう時代の雰囲気だ。こんな内装にはなかなかお目にかかれない。まるで絵の中に入り込んでしまったかのような錯覚に陥りそうな勢いだ。
 
写真を撮るのも忘れて、この壮麗な教会にすっかり魅了された後、宿への帰途に着いた。外はジルヴェスターを翌日に控える人々の活気と、イルミネーションで賑わっていた。